葬儀のアクセサリーといえばパールが一般的ですが、実は欧米の正式なマナーでは、パール以外にも弔事のジュエリーとして認められている宝石があります。それが、「ジェット」と「オニキス」です。これらの宝石は、パールとはまた違った歴史と意味を持ち、故人への敬意を表すための選択肢となり得ます。まず、「ジェット」は、和名を「黒玉(こくぎょく)」といい、数百万年前の樹木の化石から作られる、非常に軽い宝石です。その漆黒の色合いと、控えめな光沢から、古くから「モーニングジュエリー(喪の宝石)」として、ヨーロッパの王侯貴族に愛用されてきました。特に有名なのが、19世紀の英国、ヴィクトリア女王です。最愛の夫アルバート公を亡くした後、女王が長年にわたり喪に服し、その際にジェットのジュエリーを身に着け続けたことから、正式な喪の宝石としてヨーロッパ全土に広まりました。非常に軽く、長時間身に着けていても疲れにくいという特徴もあります。次に、「オニキス」は、黒い瑪瑙(めのう)の一種です。その吸い込まれるような深い黒色は、古くから魔除けや厄除けの力があると信じられてきました。パールが持つ柔らかな印象とは対照的に、オニキスはシャープで知的な印象を与えます。悲しみを乗り越え、邪念から身を守るという意味合いを込めて、身に着ける方もいます。日本では、まだジェットやオニキスはパールほど一般的ではありませんが、その漆黒の色は、厳粛な葬儀の場において非常にふさわしいものです。特に、洋装の喪服との相性が良く、凛とした佇まいを演出してくれます。ただし、カットが施されてキラキラと光るデザインのものは避け、あくまでも光沢の少ない、シンプルなデザインのものを選ぶのがマナーです。パール、ジェット、オニキス。それぞれが持つ物語を知ることで、あなたの弔意の表現は、より深く、豊かなものになるかもしれません。