お焼香の作法は、実は仏教の宗派によって回数や細かな動作が異なります。葬儀に参列した際、前の人と焼香の回数が違っていて戸惑った経験を持つ方もいるかもしれません。すべての宗派の作法を覚える必要はありませんが、主要な違いを知っておくことで、いざという時に落ち着いて対応できます。まず、抹香を額に押しいただくかどうかで大きく分かれます。天台宗や真言宗、浄土宗など多くの宗派では、つまんだ抹香を額の高さまで掲げる「押しいただく」という動作を行いますが、浄土真宗では押しいただくことはしません。これは、浄土真宗では亡くなるとすぐに阿弥陀如来の力によって極楽浄土へ往生すると考えられており、香りをお供えするという行為そのものを重視するため、ことさらに押しいただく必要はない、とされているからです。焼香の回数も宗派ごとに様々です。例えば、天台宗や真言宗では三回、臨済宗や曹洞宗では二回、浄土宗では特に定めはなく一回から三回、日蓮宗では一回または三回とされています。浄土真宗本願寺派(お西)では押しいただかずに一回、真宗大谷派(お東)では押しいただかずに二回が正式な作法です。これほどまでに多様な作法がある中で、自分が参列する葬儀の宗派がわからない場合や、自分の家の宗派と異なる場合はどうすればよいのでしょうか。最も無難な方法は、ご自身の宗派の作法で行うか、心を込めて一回だけ焼香することです。故人やご遺族の宗派に合わせることが丁寧と考える方もいますが、慣れない作法で慌ててしまうよりは、心を込めて自分の信じる作法で行う方が良い、という考え方もあります。葬儀の場では、喪主や遺族が最初にお手本を示す形で焼香を行いますので、その作法に倣うのも一つの良い方法です。大切なのは、回数や形式の違いにこだわりすぎることなく、故人の冥福を祈る気持ちを最優先することです。宗派による作法の違いは、それぞれの教えや死生観の違いから生まれたものです。その背景に思いを馳せつつ、敬虔な気持ちで焼香に臨むことが、何よりも故人への供養となるでしょう。
宗派で違う焼香の回数と作法