お焼香に臨む際、忘れてはならない持ち物が「数珠(じゅず)」です。仏様や故人への敬意を表すための大切な法具ですが、その持ち方や使い方には作法があり、焼香の場面でどのように扱えば良いか迷う方も少なくありません。正しい持ち方を身につけることで、より敬虔な気持ちで故人様と向き合うことができます。まず、葬儀会場内での移動時や、着席して僧侶の読経を聞いている間は、数珠を左手の手首にかけるか、房が下になるようにして左手で持ちます。仏教では左手が清浄な手、右手が不浄な手とされることがあるため、大切な法具である数珠は基本的に左手で持つと覚えておくと良いでしょう。そして、お焼香の順番が来て祭壇の前に進んだ時も、数珠は左手にかけたまま、あるいは左手で持ったままにします。右手は抹香をつまむために使うので、数珠を右手に持ち替えたり、両手で挟んだりする必要はありません。焼香を終え、合掌する際には、数珠の扱いが宗派によって異なります。多くの宗派では、数珠を両手の親指と人差し指の間にかけ、房が真下に垂れるようにして手を合わせます。一方、浄土真宗のように、二重にして両手の親指にかけ、房が下に垂れるようにする宗派もあります。また、日蓮宗では独特の持ち方をするなど、宗派ごとに正式な作法は様々です。もしご自身の宗派の作法がわからない場合は、左手首にかけたまま、あるいは左手で持ったまま合掌しても失礼にはあたりません。大切なのは、数珠を丁寧に扱う心です。床や椅子の上に直接置いたり、ポケットに無造作に入れたりするのは避けましょう。数珠は持ち主のお守りであり、仏様と心を通わせるための道具です。それを大切に扱うことが、そのまま故人への敬意につながります。また、数珠の貸し借りは基本的にマナー違反とされています。数珠は個人の念がこもるものと考えられているためです。大人のマナーとして、自分用の数珠を一つ用意しておくと、いかなる弔事の場面でも安心です。焼香という厳粛な儀式の中で、数珠を正しく持つことは、自身の心を整え、祈りを深くするための大切な所作なのです。