葬儀の形式や会場の設えによって、お焼香の作法は大きく二種類に分かれます。椅子席の斎場で立ったまま行う「立礼焼香(りつれいしょうこう)」と、畳敷きの和室などで座って行う「座礼焼香(ざれいしょうこう)」です。どちらの形式であっても、故人を敬い、心を込めて祈るという本質は変わりませんが、それぞれの立ち居振る舞いには違いがあります。まず、現代の葬儀で最も一般的な立礼焼香の手順です。自分の順番が来たら席を立ち、焼香台の手前まで進みます。まず、ご遺族に一礼し、次に祭壇の遺影に向かって深く一礼します。その後、一歩前に出て焼香台の前に立ち、右手で抹香をつまみ、香炉にくべます。この動作を宗派の作法に合わせた回数行ったら、その場で合掌し、深く一礼します。そして、祭壇に背を向けないように、後ろに二、三歩下がり、再びご遺族に一礼してから自席に戻ります。一連の動作を慌てず、ゆっくりと行うことが大切です。一方、座礼焼香は、主に自宅や寺院の本堂など、畳の部屋で行われる場合に用いられます。この作法は、立礼焼香よりも移動の際の姿勢が重要になります。自分の番が来たら、まず立ち上がって焼香台の手前まで進み、座布団の手前で正座します。ご遺族と祭壇にそれぞれ一礼した後、「膝行(しっこう)」と呼ばれる方法で焼香台の前まで進みます。膝行とは、正座のまま、両膝を交互に前に出して進む作法です。難しい場合は、座布団から一度立ち上がり、焼香台の近くまで歩いてから再び正座しても構いません。焼香台の前で抹香をくべ、合掌礼拝を終えたら、今度は後ずさりするように膝行で元の位置まで下がります。これを「膝退(しったい)」と言います。元の位置で再び祭壇とご遺族に一礼し、立ち上がって自席に戻ります。座礼焼香は移動の作法が複雑に感じられるかもしれませんが、基本は腰を低く保ち、敬意を示す姿勢を崩さないことです。どちらの形式であっても、大切なのは一つ一つの動作を丁寧に行い、故人への感謝と追悼の気持ちを表すことです。
立礼焼香と座礼焼香の正しい手順